虹明かり

『…彼女こそオレのマクシィなのだろうか…』



無邪気な笑顔が愛らしい妹；エレナは、生まれつき幸せだった。
一人では何も出来ない可愛い天使のような子。
誰からも愛される彼女が、姉；エレンは少しだけ妬ましかった。

「器量の悪い私を憐れみるな…。
　…惨めな思いにさせるあいつなんて死んじゃえば良いんだ…！」

あくる日エレナは高熱を出して寝込んだ。

「ごめんなさい神様…あの願いは嘘なんです！」

懺悔が届いたのか、やがてエレナの熱は下がった。
しかし、今度は母親；春夢が病の淵に倒れてしまった。

「…エレナは他人とは違うから、お姉ちゃんが助けてあげてね」
母はそうエレンに告げて、他界した。

母が亡くなって暮らしにも変化が訪れ、エレンは生きる為に朝な夕な働いた。
村の男たちは姉妹に優しくしてくれたが、村の女たちは次第に冷たくなっていった。

「貧しい暮らしだったけど、温もりがある。
　肩を寄せ合い生きている。それなりに幸せだ…」

…あくる日の夜、エレナが子供を身ごもっていることが発覚した。
村の男たちは互いに顔を見合わせ口を噤んだ。
重い静寂を引き裂いたのは耳を疑うような派手な打音。
仕立て屋の若女将がエレナの頬を張り飛ばした音だった。

「この泥棒猫！！かわいそうな子だと思って世話を焼いてあげたのに…
　恩知らずめ！！」

断片的な記憶…断罪的な罵声…

「嗚呼…この女は何を喚いている？気持ち悪い…！」

ぐらりと世界が揺れ、エレンは弾け飛ぶように若女将に掴み掛かっていた。
頭上を飛び交う口論、神父様；ネルの怒声。

「純潔を破って悪魔の契りを交わしたねー。…これは災いの種だ。
　この子はマリア様の御子では無い。火炙りだ」
「何を言っている？！レナを…妹を返せ！！
　嗚呼！悪魔とは貴様達のことだ！！」
「…お姉ちゃん、いいの。ありがとう…」
「レナぁあっ！！」

…心無い言葉、心無い仕打ちがどれ程エレナを傷つけただろう？
それでも優しい子だから…全てを許すのでしょうね…

「でも、私は絶対に許さない……！」



翌日、エレンは自身の村へと火を放った。

「この世は所詮楽園の代用品でしかないのなら、罪深き者は全て等しく灰に還るが良い！！」

…裸足のエレンは凍りつくような微笑を浮かべて、揺らめく焔の向こうに佇む『仮面の男』を見ていた…