残像を愛して
…母親、とは?
俺は立っていた。
枯れきった花達が一面に広がる見知らぬ場所に、茫然と立っていた。
目の前に女が一人、向こうを向いて立ち尽くしている。
見たことの無い女だった。
自分の記憶をいくら辿ってみても、こんな女は知らない。
急に、ざあっと強い風が吹いたかと思うと、女がこちらを振り返った。
少し吊り気味の桜色の瞳。
豪華に巻かれた茶色の髪。
尖った耳。
高圧的に微笑む女を見て、ああ、この人が俺の母親なのか、と妙にすんなりと納得した。
「…母さん?」
「……」
女は笑んだまま、口も開かず言葉も発しない。
俺は表情を彩ることも忘れ、言葉を吐き続けた。
「俺別にあんたを怨んでなんかないよ。むしろ感謝してる。あんたが俺を捨ててくれたおかげで俺は幸せになれた」
「……」
「でもな?たまーにだけど、心配になることがあるんだ」
俺はここで初めて表情を作った。
「あんたは俺のことを、愛してないんじゃないかってさ…」
「……」
あんたが俺を捨てた理由が分からないから、度々不安になっていた。
せめて、俺を産んでくれたあんたには愛されたかった。
捨てたことに関しては責めるつもりはない。
だから、だから、せめて、普通の親と同じように、愛して欲しかった。
「…俺、この家に来てから、親についてよく考えるようになったんだ」
愛情で溢れかえるこの家は、自分には場違い過ぎると感じた。
実の親に愛されず、捨てられ、歪んだ形だけの「愛」を押し付けられ続け、愛と偽りそれを売り物にして日々を過ごした。
そんな自分が今居る場所と言ったら?
「ほんとな。毒されたよなァ。あいつら、本気で…素直に…他人を愛してたんだよ。…なあ母さん、」
「……何かしら?」
「あんたもいつかうちに来ればいい。そしたらあいつらが全力で愛してくれるよ」
「ふふ…私は今でもあなたのことを愛しているわよ。ロコ」
「……」
目が覚めたのは、まだ薄暗い夜明けだった。
夢を見ていたのだと理解した俺は、肩透かしを喰らったような気分になって小さくため息を吐いた。
『ルクセヌ。何か嫌な夢でも見たっすか。汗拭けっす』
「嫌…なワケじゃねーけど…なんかフクザツ」
『ハァ?よく分からないっすけどまだ4時っすよ。寝とけっすよ』
「んー…わーってるって」
『ホラ目を閉じるっす』
「………。なあロコ、お前の母さんって…春夢さん、だよな」
『そうっすけど。何を今更言…』
「髪の毛、水色だよな?目の色は青だよな?間違ってもピンクじゃねえよな?」
『何言ってるんすか。ルクセヌだって春夢さんとはお盆に会ったっすよ。あのまんまっす。俺の母親だったセカイと何ら変わらんっすよ』
「だよな…」
『ほーら、ワケ分からないこと言ってないで寝るっすよ!』
「ああ…。おやすみ」
『おやすみっす』
夢の中のあの女だって、俺を愛さない。
俺の母さんが春夢さんだったら、と考えたことは少なくないが
そうだとしたらキィヤナとは親子となってしまう…。
「…難しいよな、色々と」
ぽつりと呟いたら、ロコは痛ましそうに顔を背けた。
俺は立っていた。
枯れきった花達が一面に広がる見知らぬ場所に、茫然と立っていた。
目の前に女が一人、向こうを向いて立ち尽くしている。
見たことの無い女だった。
自分の記憶をいくら辿ってみても、こんな女は知らない。
急に、ざあっと強い風が吹いたかと思うと、女がこちらを振り返った。
少し吊り気味の桜色の瞳。
豪華に巻かれた茶色の髪。
尖った耳。
高圧的に微笑む女を見て、ああ、この人が俺の母親なのか、と妙にすんなりと納得した。
「…母さん?」
「……」
女は笑んだまま、口も開かず言葉も発しない。
俺は表情を彩ることも忘れ、言葉を吐き続けた。
「俺別にあんたを怨んでなんかないよ。むしろ感謝してる。あんたが俺を捨ててくれたおかげで俺は幸せになれた」
「……」
「でもな?たまーにだけど、心配になることがあるんだ」
俺はここで初めて表情を作った。
「あんたは俺のことを、愛してないんじゃないかってさ…」
「……」
あんたが俺を捨てた理由が分からないから、度々不安になっていた。
せめて、俺を産んでくれたあんたには愛されたかった。
捨てたことに関しては責めるつもりはない。
だから、だから、せめて、普通の親と同じように、愛して欲しかった。
「…俺、この家に来てから、親についてよく考えるようになったんだ」
愛情で溢れかえるこの家は、自分には場違い過ぎると感じた。
実の親に愛されず、捨てられ、歪んだ形だけの「愛」を押し付けられ続け、愛と偽りそれを売り物にして日々を過ごした。
そんな自分が今居る場所と言ったら?
「ほんとな。毒されたよなァ。あいつら、本気で…素直に…他人を愛してたんだよ。…なあ母さん、」
「……何かしら?」
「あんたもいつかうちに来ればいい。そしたらあいつらが全力で愛してくれるよ」
「ふふ…私は今でもあなたのことを愛しているわよ。ロコ」
「……」
目が覚めたのは、まだ薄暗い夜明けだった。
夢を見ていたのだと理解した俺は、肩透かしを喰らったような気分になって小さくため息を吐いた。
『ルクセヌ。何か嫌な夢でも見たっすか。汗拭けっす』
「嫌…なワケじゃねーけど…なんかフクザツ」
『ハァ?よく分からないっすけどまだ4時っすよ。寝とけっすよ』
「んー…わーってるって」
『ホラ目を閉じるっす』
「………。なあロコ、お前の母さんって…春夢さん、だよな」
『そうっすけど。何を今更言…』
「髪の毛、水色だよな?目の色は青だよな?間違ってもピンクじゃねえよな?」
『何言ってるんすか。ルクセヌだって春夢さんとはお盆に会ったっすよ。あのまんまっす。俺の母親だったセカイと何ら変わらんっすよ』
「だよな…」
『ほーら、ワケ分からないこと言ってないで寝るっすよ!』
「ああ…。おやすみ」
『おやすみっす』
夢の中のあの女だって、俺を愛さない。
俺の母さんが春夢さんだったら、と考えたことは少なくないが
そうだとしたらキィヤナとは親子となってしまう…。
「…難しいよな、色々と」
ぽつりと呟いたら、ロコは痛ましそうに顔を背けた。
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