子羊
「解放、」
急に居間の方からぶっきらぼうな言葉が飛んできて、烏は自分の手を止めた。
「…なんか言いました?」
「……」
わざと丁寧な口調で聞き返してみるが、当の本人である白詰草はつけっぱなしのテレビをけだるそうに眺めるだけで、返事も無ければ視線すらよこさない。
なんなんだ、と小さく呟いて再び料理を再開する。
二人分の食事を作ることが常となった今では、クローバーと同じ部屋で同じ時間を共有すると言うことにも慣れ、抵抗を感じることも無くなっていた。
それ程長い時を一緒に過ごしている訳なのだが、烏にはクローバーの考えていることを顔色から読み取ることがどうにも出来ないままでいた。
クローバーの表情はお世辞にも豊かとは言い難いが、それが理由ではない。
彼女の表情はどこか不安定であり、それを信用することが出来ないのである。
「烏」
「は?」
ぼんやりと思考しつつリズム良くキャベツを刻んでいると、再びクローバーが声を投げ掛けてきた。
呆れたような間抜けな声で返すが、未だにこちらを見る気配が無い。
烏は妙にため息をつきたい気分になる。
「…何?」
「解放、してくれる?」
「…………何を」
烏がキャベツを切る手を止めて、部屋にはテレビから流れる明るい笑い声ばかりが響く。
数秒ばかり経過した時、クローバーがゆっくりと烏の方へと顔を向けた。
「…私を、解放して」
「……っ!」
烏は思わず固まった。
クローバーが、余りに「普通の女子高生」のような瞳を湛えていたからだ。
「最後には、私を解放して。お願いだよ」
「……ああ…」
つい、肯定してしまう。
クローバーが何を言いたいのか理解出来ていないが、迫力に飲まれたまま頷いてしまった。
我に返り、あ、と思った時にはもう既にクローバーはこちらを見ていなかった。
いつものような、不安定に何事にも興味の無さそうな瞳で、馬鹿みたいに盛り上がっているテレビを眺めていた。
『……あのお姉ちゃんと一緒にいたら、ダメだよ!
あのお姉ちゃん、”見えない”んだ…!!』
急に居間の方からぶっきらぼうな言葉が飛んできて、烏は自分の手を止めた。
「…なんか言いました?」
「……」
わざと丁寧な口調で聞き返してみるが、当の本人である白詰草はつけっぱなしのテレビをけだるそうに眺めるだけで、返事も無ければ視線すらよこさない。
なんなんだ、と小さく呟いて再び料理を再開する。
二人分の食事を作ることが常となった今では、クローバーと同じ部屋で同じ時間を共有すると言うことにも慣れ、抵抗を感じることも無くなっていた。
それ程長い時を一緒に過ごしている訳なのだが、烏にはクローバーの考えていることを顔色から読み取ることがどうにも出来ないままでいた。
クローバーの表情はお世辞にも豊かとは言い難いが、それが理由ではない。
彼女の表情はどこか不安定であり、それを信用することが出来ないのである。
「烏」
「は?」
ぼんやりと思考しつつリズム良くキャベツを刻んでいると、再びクローバーが声を投げ掛けてきた。
呆れたような間抜けな声で返すが、未だにこちらを見る気配が無い。
烏は妙にため息をつきたい気分になる。
「…何?」
「解放、してくれる?」
「…………何を」
烏がキャベツを切る手を止めて、部屋にはテレビから流れる明るい笑い声ばかりが響く。
数秒ばかり経過した時、クローバーがゆっくりと烏の方へと顔を向けた。
「…私を、解放して」
「……っ!」
烏は思わず固まった。
クローバーが、余りに「普通の女子高生」のような瞳を湛えていたからだ。
「最後には、私を解放して。お願いだよ」
「……ああ…」
つい、肯定してしまう。
クローバーが何を言いたいのか理解出来ていないが、迫力に飲まれたまま頷いてしまった。
我に返り、あ、と思った時にはもう既にクローバーはこちらを見ていなかった。
いつものような、不安定に何事にも興味の無さそうな瞳で、馬鹿みたいに盛り上がっているテレビを眺めていた。
『……あのお姉ちゃんと一緒にいたら、ダメだよ!
あのお姉ちゃん、”見えない”んだ…!!』
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