七夕小話…葬魅&レイラ 「怠惰なウォッチャー」
レイラが頬杖をついて見つめるスクリーンには、6つのウインドウが開いていた。
踊るように宙に指を滑らすと、その内のひとつが拡大表示される。
そこには銀色の長い髪を持つ表情の薄い青年と茶髪で頭に葉を着けた表情豊かな青年が、居間と思しき部屋で短冊を手に談笑していた。
『……オレだって笑わない訳じゃない。当然だろうが』
『そっ、か?』
スクリーンから声が響く。
それをけだるそうに眺めるレイラの背後に葬魅が立った。
「何を見ている」
「わっ!び、ビビんだろ、一言かけてから部屋入れよ!」
ずん、とした葬魅の言葉に対して盛大に肩をびくつかせる。
詫びのつもりであろう、葬魅は無表情で軽く頭を下げた。
いいよいいよとばかりに頭を軽く左右に振るレイラを見て、葬魅はレイラの隣にあった椅子を引いて腰掛ける。
レイラは何か言いたそうだったが、やはり頭を左右に振り何も言わなかった。
再び画面へと視線を戻し、今開いているウインドウの後ろにあるウインドウを指でタッチする。
すると、先程まで開いていたウインドウがしゅるんと小さなアイコンに変化して画面下へと移動し、タッチされたウインドウが拡大表示された。
その画面には、茶髪のくるくるとした髪を持つ眼鏡をかけた少女と黒と黄緑のツートンカラーの短髪を持つ少年が背中あわせに寄り添って窓辺を見上げている光景が映し出される。
『今年も織姫と彦星が素敵な時間を過ごせますように』
茶髪の少女が、優しく呟いた。
「これは」
「リヴリーの世界の『今』」
短く問う葬魅に対して、視線すら向けずにさらりとレイラが応える。
それを聞いて葬魅の眉がぴくりと動く。
そんな葬魅に構わずにレイラが再び違うウインドウを拡大表示させた。
現されたのはピンクの髪に白い大きな帽子を被った少女が、夜空へと叫んでいる様子である。
『…俺ッ!俺の願い事、は!…「お母さまとずっと一緒にいられますように」、なんですっ!!』
そして少女は満足そうに微笑んだ。
「……」
レイラが、反応の無い葬魅をちらりと横目で見遣ると、いつもの無表情がそこにはあった。
実のところ、彼女はひどく夢中になって画面を見詰めていたのだが、全く表情に出ない為にレイラには分からなかったのだ。
再び画面を切り替える。
映り出されるは、薄い橙と蜜柑色のツートンカラーの髪をポニーテールで纏めている少女とピンクの髪をツインテールで結んでいる少女が、浅い河の中で抱きしめあい寝転んでいる場面。
『ぬっさん、あったかいんだねー!』
『ヨネもにゅ〜v』
ころころと笑いあう二人の少女。
「百合ktkr!!」
レイラが口角を持ち上げて叫び、よりいっそう画面へと顔を近付ける。
傍目から見てもすぐに分かるほど興奮していて息が荒い。
そんなレイラの態度を気にすること無く、葬魅が淡白な声で問う。
「ここは」
「あー、ポケモンの世界の『今』」
邪魔されたのが気に食わないのだろうか、片手で葬魅に対してしっしっと振りながら面倒そうに答えた。
暫くの間、少女二人の戯れを眺めていたレイラだったがやがて名残惜しそうに画面を切り替える。
映し出されたのは、一見してそっくりの黒髪の少女二人だった。
一人は見事なまでのストレートな髪を持ち、ややきつい印象を与える瞳である。
もう一人はくるんくるんと可愛らしいパーマのかかった髪を持ち、大人しそうな瞳だった。
『マカ、大丈夫か?』
『うん…』
気の強そうな少女が、やはり力強い声音でもう一人の少女へと心配そうな声をかけた。
萎んでしまいそうな声で大人しそうな少女が頷く。
レイラはまたもテンションが上がったようで、画面に釘付けとなっていた。
「ここは」
再び葬魅が問う。
「ん、BRの世界の『今』」
再びレイラが答えた。
先程と同じように暫く眺めた後に、名残惜しげにウインドウを切り替える。
映し出されるは、白い髪の少女が暗がりの中を一人で歩いている場面だった。
『結局晴れても雨でも「出来無い」日だな。詰まら無い』
妖艶な笑みを浮かべて少女は小さく呟く。
その表情はレイラに恐怖心を与え、レイラはぶるりと体が寒気立つのを感じた。
「こういう女は嫌いだ…こえー…」
「ここは」
「ライクネスの世界の『今』」
「……」
「俺はこーやって他の世界を見んのが仕事なんだよ分かるだろJK。だから邪魔しないで下さい」
葬魅のストールが自分の首元に絡み付いてきたのを見て、語尾が可笑しくなってしまう。
葬魅が自身のストールを見詰めて無言で頷くと、ストールはしゅるしゅるとレイラから離れていった。
一瞬とはいえ生死の境に立たされたレイラは引っ切りなしに冷や汗をかいている。
「…嘘、嘘。ただののぞき見ですよええそうですよ」
「レイラ、七夕とはなんなんだ。今のを見ていても分からなかった」
「今の見て分かったら神だろ」
レイラがふう、と息を吐いて右手の人差し指で宙をぽうんと弾く。
途端、画面が消えた。
よしよしと頷いたレイラが、腕組みをして葬魅と向かい合う。
「願い事を叶えてくれるらしい胡散臭い行事。女やガキが喜んで飛びつく」
「興味が無い」
「ちょ、おまw自分から聞いたんだろ!」
すたすたと踵を返す葬魅の後ろ姿を見て、レイラは小さくため息を吐いた。
「葬魅のやつマジでわかんねー」
扉ががたんと閉まって、何も見えなくなった。
踊るように宙に指を滑らすと、その内のひとつが拡大表示される。
そこには銀色の長い髪を持つ表情の薄い青年と茶髪で頭に葉を着けた表情豊かな青年が、居間と思しき部屋で短冊を手に談笑していた。
『……オレだって笑わない訳じゃない。当然だろうが』
『そっ、か?』
スクリーンから声が響く。
それをけだるそうに眺めるレイラの背後に葬魅が立った。
「何を見ている」
「わっ!び、ビビんだろ、一言かけてから部屋入れよ!」
ずん、とした葬魅の言葉に対して盛大に肩をびくつかせる。
詫びのつもりであろう、葬魅は無表情で軽く頭を下げた。
いいよいいよとばかりに頭を軽く左右に振るレイラを見て、葬魅はレイラの隣にあった椅子を引いて腰掛ける。
レイラは何か言いたそうだったが、やはり頭を左右に振り何も言わなかった。
再び画面へと視線を戻し、今開いているウインドウの後ろにあるウインドウを指でタッチする。
すると、先程まで開いていたウインドウがしゅるんと小さなアイコンに変化して画面下へと移動し、タッチされたウインドウが拡大表示された。
その画面には、茶髪のくるくるとした髪を持つ眼鏡をかけた少女と黒と黄緑のツートンカラーの短髪を持つ少年が背中あわせに寄り添って窓辺を見上げている光景が映し出される。
『今年も織姫と彦星が素敵な時間を過ごせますように』
茶髪の少女が、優しく呟いた。
「これは」
「リヴリーの世界の『今』」
短く問う葬魅に対して、視線すら向けずにさらりとレイラが応える。
それを聞いて葬魅の眉がぴくりと動く。
そんな葬魅に構わずにレイラが再び違うウインドウを拡大表示させた。
現されたのはピンクの髪に白い大きな帽子を被った少女が、夜空へと叫んでいる様子である。
『…俺ッ!俺の願い事、は!…「お母さまとずっと一緒にいられますように」、なんですっ!!』
そして少女は満足そうに微笑んだ。
「……」
レイラが、反応の無い葬魅をちらりと横目で見遣ると、いつもの無表情がそこにはあった。
実のところ、彼女はひどく夢中になって画面を見詰めていたのだが、全く表情に出ない為にレイラには分からなかったのだ。
再び画面を切り替える。
映り出されるは、薄い橙と蜜柑色のツートンカラーの髪をポニーテールで纏めている少女とピンクの髪をツインテールで結んでいる少女が、浅い河の中で抱きしめあい寝転んでいる場面。
『ぬっさん、あったかいんだねー!』
『ヨネもにゅ〜v』
ころころと笑いあう二人の少女。
「百合ktkr!!」
レイラが口角を持ち上げて叫び、よりいっそう画面へと顔を近付ける。
傍目から見てもすぐに分かるほど興奮していて息が荒い。
そんなレイラの態度を気にすること無く、葬魅が淡白な声で問う。
「ここは」
「あー、ポケモンの世界の『今』」
邪魔されたのが気に食わないのだろうか、片手で葬魅に対してしっしっと振りながら面倒そうに答えた。
暫くの間、少女二人の戯れを眺めていたレイラだったがやがて名残惜しそうに画面を切り替える。
映し出されたのは、一見してそっくりの黒髪の少女二人だった。
一人は見事なまでのストレートな髪を持ち、ややきつい印象を与える瞳である。
もう一人はくるんくるんと可愛らしいパーマのかかった髪を持ち、大人しそうな瞳だった。
『マカ、大丈夫か?』
『うん…』
気の強そうな少女が、やはり力強い声音でもう一人の少女へと心配そうな声をかけた。
萎んでしまいそうな声で大人しそうな少女が頷く。
レイラはまたもテンションが上がったようで、画面に釘付けとなっていた。
「ここは」
再び葬魅が問う。
「ん、BRの世界の『今』」
再びレイラが答えた。
先程と同じように暫く眺めた後に、名残惜しげにウインドウを切り替える。
映し出されるは、白い髪の少女が暗がりの中を一人で歩いている場面だった。
『結局晴れても雨でも「出来無い」日だな。詰まら無い』
妖艶な笑みを浮かべて少女は小さく呟く。
その表情はレイラに恐怖心を与え、レイラはぶるりと体が寒気立つのを感じた。
「こういう女は嫌いだ…こえー…」
「ここは」
「ライクネスの世界の『今』」
「……」
「俺はこーやって他の世界を見んのが仕事なんだよ分かるだろJK。だから邪魔しないで下さい」
葬魅のストールが自分の首元に絡み付いてきたのを見て、語尾が可笑しくなってしまう。
葬魅が自身のストールを見詰めて無言で頷くと、ストールはしゅるしゅるとレイラから離れていった。
一瞬とはいえ生死の境に立たされたレイラは引っ切りなしに冷や汗をかいている。
「…嘘、嘘。ただののぞき見ですよええそうですよ」
「レイラ、七夕とはなんなんだ。今のを見ていても分からなかった」
「今の見て分かったら神だろ」
レイラがふう、と息を吐いて右手の人差し指で宙をぽうんと弾く。
途端、画面が消えた。
よしよしと頷いたレイラが、腕組みをして葬魅と向かい合う。
「願い事を叶えてくれるらしい胡散臭い行事。女やガキが喜んで飛びつく」
「興味が無い」
「ちょ、おまw自分から聞いたんだろ!」
すたすたと踵を返す葬魅の後ろ姿を見て、レイラは小さくため息を吐いた。
「葬魅のやつマジでわかんねー」
扉ががたんと閉まって、何も見えなくなった。
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