七夕小話…クローバー&チカ 「機械的インパルス」
−−いわゆる腐れ縁の幼なじみがいるんだよ。金髪で赤いメガネしてる、チャラい野郎。
CDショップに来ていた白詰草が見かけた男は、まさにそんな容姿だった。
前からよく烏が語るその幼なじみとやらと一度会ってみたいと白詰草は思っていた。
なので、男に声をかけるのに躊躇いは無かった。
「ちょっと。其処の金髪眼鏡」
言いつつ男の服をがしっと掴む。
好奇心が理性に勝っていた為、目の前の彼が烏の幼なじみという確証も無いのに無遠慮に話しかけた。
もし別人だったら、などと考えてはいなかった。
「は?なに?」
男が金髪を揺らしてこちらを振り返る。
かなり身長が高く、白詰草は元より烏よりも高いようだ。
男は怪訝そうな瞳で白詰草を見下ろすが、白詰草の鋭い眼差しに少しく怯んだようだった。
「あんた、『チカ』?」
「そーだけど」
「へえ」
白詰草がじろじろとチカを観察する。
その視線に耐え切れなくなったチカが、ぱっと白詰草の手を払いのけて去ろうとした。
しかし、再び伸びてきた白詰草の手によってそれは不可能となる。
「私は白詰草。クローバーで良いよ」
「聞いてねーって!てーか名前聞かされても、お前がなんで俺のこと知ってんのか…」
「烏から聞いてるんだよ」
「烏?…あ、もしかして、最近烏んちに家出してきたいとこってキミ?」
そんな設定は初耳だ。
しかし、いい歳の烏が女子高生と二人暮らしをしているなんて、そういう設定が無ければ変態扱いされるに決まっている。
白詰草はとりあえずチカの話に合わせることにした。
「そ。烏が何時もお世話になってます」
不敵に笑ってぺこりと頭を下げる。
「ぶっ、世話に?ああそうだな…あいつにはコーヒーくらい文句言わずさっさといれてほしいよ」
「そんなに顎で使ってるんだ?」
「一応先輩だし。俺」
「腐れ縁で幼馴染みの上に先輩?分が良いね」
そう言うとチカは笑いながら まーな、と返す。
「そーいえば。さっきから気になってんだけどそれ地毛?」
ふ、とチカの表情が興味津々なものに変わり、白詰草の頭を指差した。
白詰草はさらさらとした白髪の持ち主であるが故に珍しがられることが多く、そう問われるのも慣れていた。
「地毛じゃ無いよ。元々は普通に真っ黒だった。染めたんだ」
「へぇ〜…そうなのか。今までいろんな色に染めた人見てきたけど白いのは初めて見たな」
「そんな事無い。今は黒髪の方が珍しいから」
「確かにな!烏は目立つぜ〜、マジで」
口元を綻ばせて笑むチカを見て、白詰草は彼が「ターゲット」に為りうる人間ではないと確信した。
それはつまり、これ以上チカと話す必要が無いと言うことである。
外見はにこにこと取り繕う微笑を浮かばせたまま、そっと心中でため息をついた。
幼馴染みを己の悦楽の為に殺す烏の姿を見てみたかった気がした。
そんな烏に殺される、チカの脅威に歪む表情を見てみたかった気がした。
しかし、それは叶わないだろうという確信を持ってしまった以上、白詰草は彼への興味の大半を削がれていた。
「じゃ、私は是れで」
早々に見切りをつけて立ち去ろうとする白詰草だったが、今度はチカが白詰草の細い腕をがしりと掴む。
まさか引き留められるとは思っていなかった白詰草が驚いて立ち止まり、回れ右をした。
「ちょっと待ってて。これ買ってくっから」
「……」
そう言うとチカは手を離し、ダッシュでレジへと駆けて行った。
白詰草がぽかんとしたまま立ち尽くしていると、片手に購入したCDを幾枚か持ったチカが走って戻ってくる。
「何?私、もう帰りたいんだけど」
「悪い悪い。いや、烏んちと俺んちって結構近いからさ、途中まで一緒に帰らないかっつーお誘い」
「断って良い?」
「ってーのはこじつけで、こんな夜中に一人で帰るの危ねえから送るよって話。クローバーに何かあったら俺が寝覚め悪ィだろ?」
「はは、何其れ皮肉?」
私は飽くまで『襲う側』の人間だというのに、面白いことを言う。
白詰草は愉しそうに渇いた暗い笑みを浮かべた。
「いーからいーから。素直に言うこと聞けって。な?」
しかしチカは全く怯むこと無く、お人よしな笑顔のまま。
予想外の表情を浮かべたチカを見て、白詰草は暗い笑みを引っ込める。
どうやらチカは本気で自分を心配しているらしいと知り、余りのおかしさにククク、と喉を鳴らして笑った。
「家が近いならチカも知ってるでしょう、此の店から家迄は全然距離が離れて無い事」
「そうだけど」
「くく…御心配有り難う、心強いナイト様。でも私コンビニ寄ってから帰るから心配要ら無いよ」
それでも尚心配そうに白詰草を見つめる瞳を見て、白詰草は見せ付けるように綺麗に微笑んだ。
「是れ以上言わせ無いでよ。面倒臭い」
「…分かった」
苦笑したチカが、照れたように自身の頬を人差し指で掻く。
「それじゃ」
白詰草が小さく言葉を残してその場を去っていった。
「…うん。御心配無く。見付けたよ、『ターゲット』」
暗がりの中をゆっくりと歩きながら、白詰草は携帯電話を耳に押し当てて会話をしていた。
それは会話というより、情のこもっていない単調な報告と言ったような口ぶりだった。
「私と同い年の水色の髪を持つ女子高生。家から直ぐ近くのCDショップにて万引きを働いてる」
『…どのくらいだ?』
「一週間前から見張ってるけど、大体一日にニから三枚が日常だね」
『結構な量だな』
「どう?」
『………いい…かな…』
「分かった。じゃあ今から帰って調査開始するから」
ピッ、と通話を切る。
「…七夕だっけ」
ふ、と夜空を仰ぎ見て、綺麗な天の川が架かっているのをどうでも良さそうに眺めた。
白詰草にとって、織姫と彦星が会おうが会わなかろうが、そんなことは心底どうでもいいのである。
重要なのは、天気と星の多さだった。
「雨だと後始末が面倒だし…だからと言ってこんなに星が明るいと、殺り易いけど一般人に見付かる可能性が高く為る…。結局晴れても雨でも『出来無い』日だな。詰まら無い」
ため息をつきながら、白詰草は歩を進めるのであった。
CDショップに来ていた白詰草が見かけた男は、まさにそんな容姿だった。
前からよく烏が語るその幼なじみとやらと一度会ってみたいと白詰草は思っていた。
なので、男に声をかけるのに躊躇いは無かった。
「ちょっと。其処の金髪眼鏡」
言いつつ男の服をがしっと掴む。
好奇心が理性に勝っていた為、目の前の彼が烏の幼なじみという確証も無いのに無遠慮に話しかけた。
もし別人だったら、などと考えてはいなかった。
「は?なに?」
男が金髪を揺らしてこちらを振り返る。
かなり身長が高く、白詰草は元より烏よりも高いようだ。
男は怪訝そうな瞳で白詰草を見下ろすが、白詰草の鋭い眼差しに少しく怯んだようだった。
「あんた、『チカ』?」
「そーだけど」
「へえ」
白詰草がじろじろとチカを観察する。
その視線に耐え切れなくなったチカが、ぱっと白詰草の手を払いのけて去ろうとした。
しかし、再び伸びてきた白詰草の手によってそれは不可能となる。
「私は白詰草。クローバーで良いよ」
「聞いてねーって!てーか名前聞かされても、お前がなんで俺のこと知ってんのか…」
「烏から聞いてるんだよ」
「烏?…あ、もしかして、最近烏んちに家出してきたいとこってキミ?」
そんな設定は初耳だ。
しかし、いい歳の烏が女子高生と二人暮らしをしているなんて、そういう設定が無ければ変態扱いされるに決まっている。
白詰草はとりあえずチカの話に合わせることにした。
「そ。烏が何時もお世話になってます」
不敵に笑ってぺこりと頭を下げる。
「ぶっ、世話に?ああそうだな…あいつにはコーヒーくらい文句言わずさっさといれてほしいよ」
「そんなに顎で使ってるんだ?」
「一応先輩だし。俺」
「腐れ縁で幼馴染みの上に先輩?分が良いね」
そう言うとチカは笑いながら まーな、と返す。
「そーいえば。さっきから気になってんだけどそれ地毛?」
ふ、とチカの表情が興味津々なものに変わり、白詰草の頭を指差した。
白詰草はさらさらとした白髪の持ち主であるが故に珍しがられることが多く、そう問われるのも慣れていた。
「地毛じゃ無いよ。元々は普通に真っ黒だった。染めたんだ」
「へぇ〜…そうなのか。今までいろんな色に染めた人見てきたけど白いのは初めて見たな」
「そんな事無い。今は黒髪の方が珍しいから」
「確かにな!烏は目立つぜ〜、マジで」
口元を綻ばせて笑むチカを見て、白詰草は彼が「ターゲット」に為りうる人間ではないと確信した。
それはつまり、これ以上チカと話す必要が無いと言うことである。
外見はにこにこと取り繕う微笑を浮かばせたまま、そっと心中でため息をついた。
幼馴染みを己の悦楽の為に殺す烏の姿を見てみたかった気がした。
そんな烏に殺される、チカの脅威に歪む表情を見てみたかった気がした。
しかし、それは叶わないだろうという確信を持ってしまった以上、白詰草は彼への興味の大半を削がれていた。
「じゃ、私は是れで」
早々に見切りをつけて立ち去ろうとする白詰草だったが、今度はチカが白詰草の細い腕をがしりと掴む。
まさか引き留められるとは思っていなかった白詰草が驚いて立ち止まり、回れ右をした。
「ちょっと待ってて。これ買ってくっから」
「……」
そう言うとチカは手を離し、ダッシュでレジへと駆けて行った。
白詰草がぽかんとしたまま立ち尽くしていると、片手に購入したCDを幾枚か持ったチカが走って戻ってくる。
「何?私、もう帰りたいんだけど」
「悪い悪い。いや、烏んちと俺んちって結構近いからさ、途中まで一緒に帰らないかっつーお誘い」
「断って良い?」
「ってーのはこじつけで、こんな夜中に一人で帰るの危ねえから送るよって話。クローバーに何かあったら俺が寝覚め悪ィだろ?」
「はは、何其れ皮肉?」
私は飽くまで『襲う側』の人間だというのに、面白いことを言う。
白詰草は愉しそうに渇いた暗い笑みを浮かべた。
「いーからいーから。素直に言うこと聞けって。な?」
しかしチカは全く怯むこと無く、お人よしな笑顔のまま。
予想外の表情を浮かべたチカを見て、白詰草は暗い笑みを引っ込める。
どうやらチカは本気で自分を心配しているらしいと知り、余りのおかしさにククク、と喉を鳴らして笑った。
「家が近いならチカも知ってるでしょう、此の店から家迄は全然距離が離れて無い事」
「そうだけど」
「くく…御心配有り難う、心強いナイト様。でも私コンビニ寄ってから帰るから心配要ら無いよ」
それでも尚心配そうに白詰草を見つめる瞳を見て、白詰草は見せ付けるように綺麗に微笑んだ。
「是れ以上言わせ無いでよ。面倒臭い」
「…分かった」
苦笑したチカが、照れたように自身の頬を人差し指で掻く。
「それじゃ」
白詰草が小さく言葉を残してその場を去っていった。
「…うん。御心配無く。見付けたよ、『ターゲット』」
暗がりの中をゆっくりと歩きながら、白詰草は携帯電話を耳に押し当てて会話をしていた。
それは会話というより、情のこもっていない単調な報告と言ったような口ぶりだった。
「私と同い年の水色の髪を持つ女子高生。家から直ぐ近くのCDショップにて万引きを働いてる」
『…どのくらいだ?』
「一週間前から見張ってるけど、大体一日にニから三枚が日常だね」
『結構な量だな』
「どう?」
『………いい…かな…』
「分かった。じゃあ今から帰って調査開始するから」
ピッ、と通話を切る。
「…七夕だっけ」
ふ、と夜空を仰ぎ見て、綺麗な天の川が架かっているのをどうでも良さそうに眺めた。
白詰草にとって、織姫と彦星が会おうが会わなかろうが、そんなことは心底どうでもいいのである。
重要なのは、天気と星の多さだった。
「雨だと後始末が面倒だし…だからと言ってこんなに星が明るいと、殺り易いけど一般人に見付かる可能性が高く為る…。結局晴れても雨でも『出来無い』日だな。詰まら無い」
ため息をつきながら、白詰草は歩を進めるのであった。
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