七夕小話…マカ&裏 「キセキ」
ざわざわ、と騒がしい町並みは日常とは掛け離れている。
「えっと…わあ…広くて迷っちゃいそう…」
今日、7月7日は、町の大通りを使用して七夕祭が開催されているのである。
普段大通りにあるお店は殆どが閉店しており、代わりに沢山の屋台が営業していた。
その風景は非日常であり、いくら毎年開催されているお祭りとは言え自分の現在地を把握するのは難しかった。
そしてマカは早速道に迷っていた。
「私…今どこにいるのー…?!…はあ、なんで皆今年はお祭り来れないのかなあ…皆がいたらきっと迷わなかったのに」
「他力本願だな、マカは」
「うー…仕方ないよ、方向オンチなんだもん」
「それは俺もだ」
「そりゃそうだよ、私とおんなじなんだから」
そう苦笑するマカの隣に立ち、辺りをきょろきょろと見渡しているのは、紛れも無い裏マカであった。
時は遡り、それは今朝のことである。
「…んー…あつい…」
あまりの寝苦しさにマカがいつもよりも早い時間に目を覚ました。
まだ完全に目覚めていない脳を起こそうと、頭を軽くふるふると左右に振る。
…こつん。
「いたっ…?」
右側に振った頭が黒くて固いものにぶつかった。
「……?」
マカが頭をさすりながら、ぼうっとそれを見つめる。
自分はいつものように一人で布団に潜り込んだはずだ。
ぬいぐるみや抱きまくらすらも布団には持ち込んでいない。
明らかに見覚えの無い黒いものが、当然のようにマカと同じ布団に入っていた。
しかも、すう、すう、と言う静かな寝息まで聞こえてくる。
「ひっ…ひと!?」
ようやくその考えに至ったマカは、慌てて布団からはいずり出た。
怯えきった瞳で眠りこけている人物の頭頂部を見詰める。
「あっ…う、裏!だれかそこにいるよ!!どうしよう…!」
声に出して、自分の内に居るはずのもう一人の自分へと話しかけた。
いざと言う時に彼女は本当に頼りになるのだ。
マカは自分よりも寧ろ彼女のことを信頼していた。
だからこそ、正体不明の侵入者への対処法は裏に聞くのが一番だと考えた。
「裏?!」
が、しかし、いつもすぐ答えを返してくれるはずの彼女の声が一向に聞こえない。
と言うより、自分の中に裏の存在すら感じられない。
「なんで……ま、さか…っ!」
マカはごくりと唾を嚥下してから四つん這いで布団にじり寄り、意を決して布団をがばっと持ち上げた。
そこに眠っていた人物は、マカの想像通りの人物……もう一人の自分だった。
「裏は本当にわからないんだよね、なんで私と分離したのか…」
人混みを縫うように歩を進めながら、隣を歩く裏マカに問う。
「ほんっとーにわかんねえ。まあ、結果的にこうして一緒に祭に来れたんだからいーじゃん」
「そうだね…アルトナたちはみんな忙しいみたいだし、確かにちょうどよかったかも!」
「完璧に代打だな」
「ふふふ、ごめんなさい」
口元を両手でおさえてくすくすと笑うマカを見て、裏マカが再び口を開く。
「浴衣、似合ってんな」
「ありがとう!裏も似合ってるよ」
「俺は似合わないだろ…てか似合うって言われても嬉しくないっつーか」
「すごく似合ってる。ふふ」
「わざとらしく言うな!」
マカ宅に浴衣は一着しか無かったのだが、祭に来る際に友人であるディンに事情を話して浴衣を貸して貰ったのだ。
アルトナはマカとは身長が10センチほど離れているため、借りることが出来なかったのだ。
それを知ったアルトナはひどくショックを受けており、しばらくぶつぶつと乳製品の名前を列挙し続けていたのを覚えている。
「あのときのアルトナ、面白かったね。こう言ったらちょっとひどいかもしれないけど」
「抜け殻みてぇだったな。いや、ゾンビ?」
「あはは。今度、ディンに何かお礼あげないとね。ついでにアルトナにも牛乳をあげましょう」
「それ、嫌がらせだろ」
他愛のない話をしながら屋台と屋台の間を歩くマカと裏マカ。
その時、話すのに夢中で周りをちゃんと見ていなかったマカの左肩がすれ違う人とぶつかった。
「きゃ、…ごめんなさい!」
少しバランスを崩すがすぐに持ち直し、自分の失念を悟り即座に謝った。
ぶつかった相手は男性で、こちらも3人ほどの友人と談笑しつつ歩いていたようだ。
それを見て、自分が一方的に悪い訳では無かったかと安心してほっと一息をつく。
「…良かった」
「ったく、気をつけろよマカ」
「うん、ごめんね」
そう言う二人を眺めて、男性らが声をあげた。
「何あれ、双子か?」
「身長も全く同じだしそっくりだな。髪は違うみてーだけど」
「へー、すげー」
本人達は悪意も何も無くただ思ったことを口にしただけだったが、その言葉が耳に届いたマカにとっては多少なりとも悪意が含まれているように感じた。
自分たちが見せ物にでもされているような感覚。
それは決して気持ちのいいものでは無い。
「…っ」
既に男性らはどこかへと行ってしまったが、マカには周囲の人々が自分たちへと向ける視線の全てがいちいち気になるようになってしまった。
稀有なものを見る、物珍しそうな瞳や声。
マカはそれらを振り切るようにぎゅうっと目をつむり、そっと裏マカの浴衣の袖を掴んだ。
「マカ、大丈夫か?」
全てを理解している裏マカが、マカの頭を撫でる。
「うん…」
あまり芳しくないマカの返事を聞いて、裏マカはぎゅっとマカの右手を握りしめた。
マカが驚愕の表情を浮かべ、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げる。
「あ、う、裏っ」
「考え込むなバカ。言わせとけばいいんだよ。今日は特別だぜ…祭終わるまでこのままでいてやるからな」
「……あ、ありが…とう」
にっ、と不敵に笑う裏マカを見て、やっぱり彼女が一番頼りになるなと再認識する。
顔を相変わらず赤く染めたまま、マカは小さくくすりと笑った。
「えっと…わあ…広くて迷っちゃいそう…」
今日、7月7日は、町の大通りを使用して七夕祭が開催されているのである。
普段大通りにあるお店は殆どが閉店しており、代わりに沢山の屋台が営業していた。
その風景は非日常であり、いくら毎年開催されているお祭りとは言え自分の現在地を把握するのは難しかった。
そしてマカは早速道に迷っていた。
「私…今どこにいるのー…?!…はあ、なんで皆今年はお祭り来れないのかなあ…皆がいたらきっと迷わなかったのに」
「他力本願だな、マカは」
「うー…仕方ないよ、方向オンチなんだもん」
「それは俺もだ」
「そりゃそうだよ、私とおんなじなんだから」
そう苦笑するマカの隣に立ち、辺りをきょろきょろと見渡しているのは、紛れも無い裏マカであった。
時は遡り、それは今朝のことである。
「…んー…あつい…」
あまりの寝苦しさにマカがいつもよりも早い時間に目を覚ました。
まだ完全に目覚めていない脳を起こそうと、頭を軽くふるふると左右に振る。
…こつん。
「いたっ…?」
右側に振った頭が黒くて固いものにぶつかった。
「……?」
マカが頭をさすりながら、ぼうっとそれを見つめる。
自分はいつものように一人で布団に潜り込んだはずだ。
ぬいぐるみや抱きまくらすらも布団には持ち込んでいない。
明らかに見覚えの無い黒いものが、当然のようにマカと同じ布団に入っていた。
しかも、すう、すう、と言う静かな寝息まで聞こえてくる。
「ひっ…ひと!?」
ようやくその考えに至ったマカは、慌てて布団からはいずり出た。
怯えきった瞳で眠りこけている人物の頭頂部を見詰める。
「あっ…う、裏!だれかそこにいるよ!!どうしよう…!」
声に出して、自分の内に居るはずのもう一人の自分へと話しかけた。
いざと言う時に彼女は本当に頼りになるのだ。
マカは自分よりも寧ろ彼女のことを信頼していた。
だからこそ、正体不明の侵入者への対処法は裏に聞くのが一番だと考えた。
「裏?!」
が、しかし、いつもすぐ答えを返してくれるはずの彼女の声が一向に聞こえない。
と言うより、自分の中に裏の存在すら感じられない。
「なんで……ま、さか…っ!」
マカはごくりと唾を嚥下してから四つん這いで布団にじり寄り、意を決して布団をがばっと持ち上げた。
そこに眠っていた人物は、マカの想像通りの人物……もう一人の自分だった。
「裏は本当にわからないんだよね、なんで私と分離したのか…」
人混みを縫うように歩を進めながら、隣を歩く裏マカに問う。
「ほんっとーにわかんねえ。まあ、結果的にこうして一緒に祭に来れたんだからいーじゃん」
「そうだね…アルトナたちはみんな忙しいみたいだし、確かにちょうどよかったかも!」
「完璧に代打だな」
「ふふふ、ごめんなさい」
口元を両手でおさえてくすくすと笑うマカを見て、裏マカが再び口を開く。
「浴衣、似合ってんな」
「ありがとう!裏も似合ってるよ」
「俺は似合わないだろ…てか似合うって言われても嬉しくないっつーか」
「すごく似合ってる。ふふ」
「わざとらしく言うな!」
マカ宅に浴衣は一着しか無かったのだが、祭に来る際に友人であるディンに事情を話して浴衣を貸して貰ったのだ。
アルトナはマカとは身長が10センチほど離れているため、借りることが出来なかったのだ。
それを知ったアルトナはひどくショックを受けており、しばらくぶつぶつと乳製品の名前を列挙し続けていたのを覚えている。
「あのときのアルトナ、面白かったね。こう言ったらちょっとひどいかもしれないけど」
「抜け殻みてぇだったな。いや、ゾンビ?」
「あはは。今度、ディンに何かお礼あげないとね。ついでにアルトナにも牛乳をあげましょう」
「それ、嫌がらせだろ」
他愛のない話をしながら屋台と屋台の間を歩くマカと裏マカ。
その時、話すのに夢中で周りをちゃんと見ていなかったマカの左肩がすれ違う人とぶつかった。
「きゃ、…ごめんなさい!」
少しバランスを崩すがすぐに持ち直し、自分の失念を悟り即座に謝った。
ぶつかった相手は男性で、こちらも3人ほどの友人と談笑しつつ歩いていたようだ。
それを見て、自分が一方的に悪い訳では無かったかと安心してほっと一息をつく。
「…良かった」
「ったく、気をつけろよマカ」
「うん、ごめんね」
そう言う二人を眺めて、男性らが声をあげた。
「何あれ、双子か?」
「身長も全く同じだしそっくりだな。髪は違うみてーだけど」
「へー、すげー」
本人達は悪意も何も無くただ思ったことを口にしただけだったが、その言葉が耳に届いたマカにとっては多少なりとも悪意が含まれているように感じた。
自分たちが見せ物にでもされているような感覚。
それは決して気持ちのいいものでは無い。
「…っ」
既に男性らはどこかへと行ってしまったが、マカには周囲の人々が自分たちへと向ける視線の全てがいちいち気になるようになってしまった。
稀有なものを見る、物珍しそうな瞳や声。
マカはそれらを振り切るようにぎゅうっと目をつむり、そっと裏マカの浴衣の袖を掴んだ。
「マカ、大丈夫か?」
全てを理解している裏マカが、マカの頭を撫でる。
「うん…」
あまり芳しくないマカの返事を聞いて、裏マカはぎゅっとマカの右手を握りしめた。
マカが驚愕の表情を浮かべ、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げる。
「あ、う、裏っ」
「考え込むなバカ。言わせとけばいいんだよ。今日は特別だぜ…祭終わるまでこのままでいてやるからな」
「……あ、ありが…とう」
にっ、と不敵に笑う裏マカを見て、やっぱり彼女が一番頼りになるなと再認識する。
顔を相変わらず赤く染めたまま、マカは小さくくすりと笑った。
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