虹明かり

いとも呆気なく、貴方が死んだから。



余りに突然すぎて何が何だか分からなくて、俺は未だに貴方の死が信じられなくて、
まだ俺達なんにもしてねえじゃん。

ねえ、…なあ、俺、いつも言ってんじゃん。
マジで好きなんだって。
マジで愛してんだって。

「……は、はは…あっははははは！！！」

俺は馬鹿みたいに笑った。

「冗談なんだろ！俺がうぜぇからたまには驚かしてやろうとか…そういう、さあ…」

次第に自分が何を口走っているのか理解出来なくなる。

「…………嘘だよ…」

依然として貴方は血まみれで倒れているだけ。
左胸はどす黒く染まり、白い肌には赤と黒がよく映えた。
自然と開かれた唇からは眩しいほど鮮やかな血液が今も滴っている。
綺麗だった深緑の双眸は、もはや濁って虚ろで死んだ魚のよう。

そういえば、いつだったか、その碧色の瞳を悲しく思っていた時があったね。
俺が好きだと言ったらそれほど悩まなくなったじゃん。

…俺、キィのその瞳が本当に好きなんだよ。

でも、今のキィの瞳は、白く濁っていて瞳孔が開ききっている。
もう、二度と、見つめられない。



「…………ッ……！！」

ふつり、と箍が外れた。
涙が出るより先に理性が飛ぶ。
顔を出したのは、本能と呼ぶには悍ましすぎる感情。
…いや、情なんて無いのかもしれない。



俺はただやみくもに口付けた。
深く、深く、もっと奥へ。
温かさなど微塵も無いかつてキィだった肉塊へ。
容赦無く血の味がする。
それすらもどこか愛おしく、酷く甘美で上等な味。

口付けを交わしたまま、空いた左手で彼の左胸付近をまさぐった。
ぬとり、と生暖かい血液が俺の左手を濡らす。
ぬちゃ、ぐちょ、とさらに血塗れの肉塊の中をまさぐっていくと、柔らかい臓器に触れた。
心臓。
そう悟った瞬間、異常に興奮を覚えた。

がっ、と心臓を掴み思いっきり引き抜いた。
ぶちぶちぶちっ、と痛々しい音が響いて幾多の血管が千切れていく。
取り出した心臓を地に放り、穴の開いた左胸へ両手を這わせた。

粘着質の音を響かせながらキィの『ナカ』を探っていく。
心臓があった辺りの肉を若干契り取ってみた。
それを自分の口へと運ぶ。
口の中へ入れた途端に鉄錆のような匂いがしたが、味は上々で病み付きになりそうだ。





「あははははははははははは！！！！」

包丁が台所にあるよな？
持ってくるか。

「…は、はは………。……」

漸く、涙が零れた。

「……まだ…俺達なんもしてねえじゃんかぁ…！」

両手で涙を拭うと、真っ赤に血塗れているせいで顔まで真紅に染まっていく。

「キスだってし足りないし…俺、まだ、好きだって言い足りない……結局お前を抱いて、ない……ッ！！」





今からでもいいから

抱いていイかな