『右が悪いわけじゃないな』
『右が生まれてしまったこと、その事象自体が悪いんだ』
『だから右にはこの世界に生まれ出てくる前に運命の為に消えて貰おう』
『小生かい? 小生は…』
『…ただのなんてことない、神だよ』
「あんた、誰?」
「………」
「名前ねぇの?」
「………」
「名前がないと呼び方に困るぜ。俺がつけてやるよ!おまえは今日からロコな」
「……なんでっすか」
「なんとなく」
「そんな適当な理由、嫌っす」
「うっせぇよ(笑)…なあロコ、なんでおまえはここにいるんだよ」
「…生まれることが出来なかったからっす」
「………」
「なんすか。面食らってんですか」
「いや…なんつーか、ロコ、…少し俺の好きな人に似てる。気がすんだよな」
「そう…っすか…」
俺だって、キィヤナさんのこと、大好きになるはずだった。
誰よりも尊敬するはずだった。
でも、本当に好きになるはずだったのは、
漆黒の髪を持つ向日葵のような彼女だった。
***
ひとつ、この世に生まれ出ようとした生命があった。
神の手によって存在を形作る前に消去されてしまった生命があった。
自分が宿っていた母親でさえ、その生命の存在に気付くことが出来なかったほど、とても小さく無力な存在であった。
ひとつ、この世に望まれることなく生まれ出た生命があった。
寒空の下母親に捨てられて、神と同等の力を持つ異端に拾われた生命があった。
いつしかその生命は、不幸な生い立ちを感じさせることのない青年へと育った。
誰にも知られずに失せた存在。
誰にも望まれずに生まれた存在。
彼らの歩んでゆく先は……
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